今回は、自給自足を目指す者にとって憧れの領域『布』をDIYする方法についてご紹介します。
僕たちの生活と切り離せない『布』。当たり前の存在すぎて、布がどのように作られるのか忘れてしまって久しい現代です。安く手に入るためそのありがたみを忘れてしまいがちですが、自分で布を作ることに取り組んでみると価値観が変わります。
布はファッションの流行などに影響されて大量生産、大量破棄されるもの。でも、そんな当たり前の存在を、もう一度立ち止まって考えてみることも必要だと思うのです。
そのきっかけを与えてくれるのが、『手織り』。
原始時代から変わらない仕組み
布は、僕たち人類が手仕事を行うようになって以来、はるか昔からずっと作られてきました。理由ははっきりとしていないようですが、僕たち人間は他の動物とは違って毛皮を脱ぎ捨てた生き物。体の一部分を除いて毛のないつるつるな状態になりました。
そんな僕たちにとって必要不可欠なものが『布』。毛皮がない分、布をまとうことで寒さや虫などの外敵から身を守る必要があったのです。
布の基本的な構造は太古の昔から変わっていません。糸を縦・横交差して織り込んでいくというシンプルな仕組みです。
縦と横の糸を織り込むだけで布になるのですが、それで満足しないのが僕たちの好奇心。シンプルで制約のある布の構造の中で、柄やデザインを凝るようになりました。
どこでも取り組める手織り
手織りというと大きな『機織(はたお)り』をイメージする人が多いと思います。足で踏みながらがっこんがっこん織っていく仕組みのものです。
こちらが我が家の機織り機。SAORIという素晴らしい機織り機です。足で踏み込みながら織り込んでいくタイプですが、コンパクトな造りなのでリビングなどにも置けます。折り畳み式のものもあるので省スペースで本格的な機織りが出来ます。
そして、こちらが卓上タイプの手織り機。我が家ではオリヴィエという商品を愛用しています。コンパクトなサイズで、足を使わず手だけで織ることが出来ます。お手軽サイズですが本格的な布を織ることが出来ます。
時間がゆったりになる
手織りを始めるとまず気づくのが『時間の感覚』。
手織りはゆっくりと時間をかけて布を織り込んでいく手仕事です。セカセカしてあわただしい現代人の感覚ではなかなか取り組めないかもしれません。
心を落ち着けて、『ゆったりとした時間を過ごす』という心構えが必要です。
手織りは糸とセッティングする“整経(せいけい)”と呼ばれる作業があります。織る時間と同じかそれ以上を糸のセッティングに時間をかけなければいけません。
そして、セットした経糸(たていと)に緯糸(よこいと)を織り込んでいきます。
カタン、カタンと織り込んでいく時間はとてもゆっくりに感じます。織り込んでいく工程な単純作業ですので、会話をしたり、ポッドキャストを聴いたり、そんなふうに穏やかな時間が流れます。カタン、カタンという音を楽しむのも一興。
こんなふうにゆっくりとした時間を過ごすのはいつ以来だろう。そんな感覚になると思います。
モノに対する価値観が激変する
現代日本では布を安く手に入れることが出来ます。服も安価な値段ですし、飽きたら捨てる、なんてことも。
どんなものでもボタンを一つ押せば翌日には商品が届く現代社会。コストパフォーマンスを考えると、『ゆったり時間』などと言って労力をかけて布を織ることは割に合いません。
それでも、僕たちは布を自作しますし手織りをする時間が大好きです。単なる布でも、自分で創るとこんなに時間がかかることが分かれば、『モノ』に対しての価値観が変わります。途上国の人々が作ったであろう安価な布を気軽に購入するという気持ちがなくなっていくのです。購入した場合は大切に使って最後は土に還し、野菜を育てます。
瞬間的なコストパフォーマンスで言えば手織りは割に合いません。でも、10年、20年の人生単位でみると生活コストは確実に下がります。モノを大切にしようという心構えが育まれるからです。
綿花からも作れる
布を作る。突き詰めていくと、行きつく先は綿花の栽培です。
僕たちは綿花を育てて収穫し、糸に加工して布にしました。言葉では言い表せないくらい途方もない作業です。昔の人は家庭で栽培から布までしていたらしいので、本当にすごいですね。
綿花を布にまで出来たときの喜びは格別です。